株価がここまで上昇してきた背景には、株式市場の楽観的な予想にあります。インフレがピークしたことにより、FRBは政策金利を来年にも引き下げると予想したことです。しかし過去の事例や最近のFRB幹部の発言を見ると、早々に政策金利を引き下げる気配は見えません。
一度根付いたインフレは簡単に消えない経験則があります。インフレが収まったと安堵し金利を下げると、再びインフレが成長し経済を阻害します。そうならないように、FRBは市場が思うより政策金利を上げて、かつ、長い期間それを高いままにしておくことがあります。
☆この記事でいいたいこと☆
過去の事例や、最近のFRB幹部のコメントを見ると、FRBはインフレを抑えたと確信できるまで、景気後退を招いたとしても、政策金利を引き上げる可能性がある。そして現時点では株式市場はその可能性を織り込んでいない。
ボルガーFRB議長時代には景気後退に入っても、政策金利を引き上げた
過去のインフレで参考になるのは、ボルガ−FRB議長時代の1980年前後です。このときのインフレは1970年代初めのFRBの失策になどにより、インフレが根付き、最大で約14%まで上昇しました。実際は1970年代から長い間インフレは続いており1980年に入りようやくインフレが収まった経緯があります。
ボルガ−議長の時代にはインフレは文字通り「制御不能」の状態になっていました。ですからボルガ−議長は政策金利を最大20%近くまで引き上げています。
今のインフレはボルガ−時代以来の高さですから、FRBや市場参加者は、当然この時代の政策や行動を勉強しています。彼らの頭の中には、この時代でやったことや帰結があります。そして彼らの頭の中が株式市場を動かします。
過去にボルガ−議長率いるFRBが行ったことは「景気後退が起きても政策金利を引き上げた」です。FRB当局者の頭の中にも当然、それはあります。
網掛けの部分が景気後退期です。FRBは景気後退が起きている中でも、政策金利を上げたことがわかります。なぜならそうしないとインフレが収まらないからです。今回もFRBが並々ならぬ決意を抱いているのならば、同じ行動を取る可能性があります。
FRB幹部からは、これからも政策金利を引き上げる発言
次にFRB幹部の発言を見ます。
FRBはインフレとの闘いにコミット-複数の連銀総裁が表明 - Bloomberg
バーキン総裁、FRBはインフレ抑制の決意-景気後退リスクでも - Bloomberg
FRB幹部は例外なくインフレ抑制の決意を述べています。言うまでもなくインフレ抑制とは利上げのことです。この発言からFRB幹部はインフレ退治をする並々ならぬ決意を感じます。
幹部たちの間で違いがあるのは、9月の利上げ幅で0.5%か0.75%か、です。どちらにしろ金利を上げます。7月でインフレがピークに達した可能性があるにしても、FRBは政策金利を上げる考えを持っているということです。
FRBの行動を決めるのは株式市場ではなく、FRB総裁や理事たちです。彼らが利上げすると言っているのだから、FRBは利上げしますし、当分、金利は高いままだと思われます。
株価は景気後退と政策金利の引き上げを織り込んでいない
最近の株式市場は強気でしたが、弱気相場の中の反発に過ぎないかもしれません。というのも将来に起こる景気後退と政策金利の上昇を考えると、株式市場が上昇するのは理にかなっていないからです。
日本の株式市場なら意味のない動きも分かのですが、世界最大の規模である米国株式市場はある程度、理にかなった動きを見せます。FRBが金融緩和をすれば株高、金融引締めをすれば株安という、理屈にかなった動きをみせます。
経済指標をみれば、景気の鈍化、減速は明らかです。政策金利の上昇も明らか。しかし株式市場が今見せている、株価の上昇はどうにも米国株式市場らしくないなと思います。市場参加者が夏休みから戻り、ボリュームが戻る今、株価はこれから景気後退や政策金利の引き上げを、織り込みに行く動きを見せるかもしれません。